知識創造型図書館における学習支援環境の構築

 電子的学習環境の整備は、学習支援という文脈のなかで図書館が関与しなければならない重要な領域である。資料検索やデータベース、電子ジャーナルというサービス以外にも、図書館は新たなサービス展開を図っている。電子的学習環境であるVLE(仮想的学習環境)やMLE(学習運営環境)は、eラーニングのみならず従来型の集合教育においても、教室の授業を補完・支援するものとして普及が進んでいる。これらの学習環境では、「授業と学習」そのものの充実とともに、「図書館/学習情報資源」の充実が望まれている。
 学習におけるアウトプットは知識創造プロセスの結果であるが、知識創造には思考の刺激となる情報や思考の裏づけとなるデータや文献を必要とする。学習者は最終的なアウトプットを目指して、主題を設定し、分割し、統合し、分類し、類型化する。学習情報資源は常に思考と連動する形で参照される。このことから今後の学習支援システムは、利用者の学習フェーズにしたがって、学習情報資源が思考を追随するシステムになると考えている。  そこで本研究では、学生の自立的学習を促し、知識創造を支援する非定型学習環境の構築を行った。非定型学習とは、学習者が自由な思考で学習内容や利用する情報資源を選択して進める学習である。非定型学習環境の構築にあたり、学習者の動的な思考の流れを「学習トピック」として定義した。学習トピックは,学習者の思考を言語化し,表現したものである. 非定型学習環境における学習トピックと情報資源の関係をモデル化したものが図1である.図1では,上のレイヤが学習トピック(T)の流れ,下のレイヤが情報資源(R)の利用の流れを示す.ここでTは学習者が自発的に設定するものであり,複数のRの利用により変化すると推測される.このT1-3における一連の系列が知識形成における学習者の思考の変遷である.
 本システムは,教育資源としてOCWやLMSが提供するコンテンツ,研究資源として図書館情報学分野の書誌データベースBIBLISを現在登録している.また,グーグルやウィキペディア等のWeb上の資源が利用できる.本システムはこれらの資源に対して横断検索を行い,インタフェース上で参照したり,ノートを記載したりすることができる.(図2)
 本システムを数名の学生に利用してもらったところ、各学習フェーズにおいて以下の特徴が見受けられた.学習の初期段階では,それぞれのユーザが持つ興味・関心が優先し,情報探索の手段として教育・研究資源等が参照される.この時点では,多面的な視点から情報資源の収集・保存が行われる.学習トピックは検索語が中心となり,散逸的なものとなる.学習の中期段階では,収集した情報資源に対し,コメントを書き込むためにノートが使われることが多い.また,学習トピックの系列の中から重要なものだけが履歴として記録されるようになる.この時点から,蓄積された学習トピックの系列を参照しながら,ノートや利用したコンテンツとの対応付けが行われる.学習の後期段階では,学習者が情報資源の特徴を把握していることもあり,特定の情報資源を中心に利用するようになる.その結果,探索過程では横断検索より個別検索が使用されることが多い.また,記録したノートやコンテンツは,学習トピックによって系列化された情報資源として参照される.学習をとおして情報資源は常に参照されるが,その利用の様態には思考の段階ごとに差異があることが明らかになった。今後さらに知識創造プロセスとシステムの相互作用について研究を行い、知識創造型図書館の完成を目指す。