都道府県がそれぞれ設置した図書館の活動指標とその財政状況指標との間には強い相関性がみられるのに対して市町村立図書館の場合には両者間の相関はきわめて低い(財政力指数、経常収支比率、地方債残高、実質公債比率と、図書館経費、蔵書冊数、図書館スペースとのそれぞれの相関係数は、都道府県の場合は0.55〜0.76、市町村の場合は0.1程度)。このことは、各市町村の図書館政策が、基本的には財源に制約されるにしても、財政状況とはさほど関係なく展開されていることを意味している。
本研究では、各市町村の公共図書館の経営の状況をさまざまな視点から探索する。
公共図書館の規模の最適規模を探索した池内淳の手法*(変数間に三次の関数モデルを仮定して回帰推定を行い、最適規模を探索する)に基づき、平成16年度までに合併された地方自治体(合併前178,合併後95)の図書館の基本データを分析した。その結果、最適規模は研究対象データのうち上位10位程度の大きい規模の図書館において定義された。しかし、「大きければ大きいほどよい」のではなく、「延床面積」,「図書館費」では最低値が最適値を上回っており、最適値を越えると効率性が下がることや、「延床面積」については費用の最小化と産出の最大化のどちらに主眼を置くかによって最適規模が異なることが示された。さらに合併前後の変化として、「蔵書冊数」は合併後減らすのが効率的、「職員数」の町村カテゴリと「延床面積」の市カテゴリでは、単館レベルでは合併後小さく、自治体レベルでは合併後大きくするのが効率的と、異なる結果が得られた。
量的な調査とともに、自治体レベルにおける最適規模に近い数値を確保できたI県A市における、合併前後の、図書館サービスに対する住民(来館者)の認識を調査した。この調査では上述の調査とは異なる、たとえばサービス方式の違いや職員の姿勢などの個別の運営に関わる点が利用者満足度を左右していることがみてとれた。
*池内淳.公共図書館の最適規模に関する実証的研究.Library and Information Science, No.46, 2001, p.1-36.
T県B市立図書館において、そのサービスと住民(来館者)の意向との一致度をさぐった。この市には別のセンターに情報端末(PC)はあるものの、図書館には設置されてない。右図は、このことをどのように利用者は考えているかの結果である(レベルはパーセンテージである)。60代を除けば、60〜80パーセントが「必要」と答えている。
この市は、社会教育施設に力を注いていないわけではなく、図書館経費等は県の平均値である。しかし、図書館のサービスモデルは、古いままだといえる。
図 PC未設置図書館における来館者の意見